« 一周年 | トップページ | 名残 »

満月

思い出す母の味は沢山あれど

その中で上位に君臨しているのは

なんといっても散らし寿司

をおいて他には無いのである

Pict2101a

母は早朝五時半からお墓掃除へ

帰ってシャワーを浴びてから台所へ立つ

団扇で扇いで風を送りつつ

大きな木桶の中で寿司酢とご飯を

杓文字でさっくりと切るように空気を含ませ

胡瓜や人参、蓮根や蒲鉾、おじゃこなど色とりどりの具を混ぜ込む

Pict2095

「味見してみ」そう母に言われて

あーんと口を大きく開け租借する時の喜びは

子供の頃から何ものにも変えがたい特別なものだった

盛り付けるのは私の仕事

甘辛く煮付けられた椎茸や

茹でて一層緑が濃くなったインゲン豆

くるんと丸まった海老は二尾ずつねとか

「錦糸玉子と金胡麻は私だけ少し大目にしてもいい?」

などといちいち聞かなくてもそうするつもりなのに

母の「いいよ」がどうしても聞きたくて

それらの一連の流れが何一つ変わっていないことに安堵する

実家にある大皿をかき集めて

それぞれに盛っていく様を写真に撮ったら

それはそれは懐かしく泣きたいくらい優しい食卓に映った

次に黙々と子鮎の天ぷらを揚げていく

当たり前だけれど夏場ガスコンロ周りは相当に気温が上がる

何もせずエアコンの下で寛ぐ父をどやすと

こそこそと母の足元に扇風機を置きにいきしたり顔

なんかイラっとするのだけど憎めないので最後には笑うしかなくなる

「お隣のおばちゃんとこちゃっと持って行ってきて。あ、このお皿借りてたからついでに返しといてな」

という母の指令を受けてつっかけ引っ掛けてお隣へ

「いやー、散らし寿司と天ぷら!?ご馳走やん。いつもおおきにな。

水玉ちゃん帰っとったんや。旦那さんも一緒?野菜持って帰るんやったら用意しとくさかい言うてな。」

おばちゃんの声は相変わらず驚く程によく通り

大袈裟ではなくこちらの家にまで筒抜けで

帰っていちいちどうであったか報告する必要がないので便利である

ちょうど親戚のおじさんが来ており

「次はそっち寄らせてもらうし宜しくー」

と真昼間っからほんのり赤い顔をしながら

上機嫌で生ビールの入ったグラスを傾けていたりしてとてもお盆らしい

作りすぎたおかずをお裾分けしたり

気遣いなく勝手口から出入りしたり

雨が降ったら洗濯物をついでに取り入れておいたり

そんな密なご近所付き合いがまだまだここには沢山あって

いつ帰ってきても温かく迎えてくれる

新しいものもすぐに受け入れてくれる寛容さに感謝しきりである

Pict2102

帰省には帰って両親の安否を省みるという意味があるという

帰り際

「また逢う日まで」

金輪際のお別れみたいに祖母が言う

その言葉の後には元気でいるよと続くのだろうか

元気でおりやと続くのだろうな

いつだって自分のことは後回しで家族の心配ばかりしている

帰る道すがら

空に浮かぶ満月がどこまでもどこまでもついて来て

見事なまでに真ん丸で光輝くお月様に両親や祖母の姿を重ね合わせた。

|
|

« 一周年 | トップページ | 名残 »

一喜」カテゴリの記事

コメント

なんかさぁ。
わたし、こういう水玉さんの日記読むたびにいつも泣いてる気がする。
わたしの中にある記憶が
ではなく。
きっと、わたしが切望していた記憶が

おかえりなさい。

日本にしかない言葉ってほんと?

投稿: ロマン | 2011/08/22 22:24

今、「幸福な食卓」という本を読み始めていて
このタイトルにぴったんこなお話^^*

錦糸玉子と金胡麻多め(笑)かわいいな♪
やっぱり黄色たっぷりなのね。くすくす

投稿: | 2011/08/23 08:54

そこにあっていつも同じであることでホッと出来る所それが実家だよねhappy01
私も離れてみて初めてそう感じたよ。

それに昔は田舎ならではの密着感が嫌だと思った事もあったけれど、今となってはそれが有り難い。
だって両親と離れて暮らしていても何かがあったらお隣さんが気付いてくれるという安心感に繋がっている。
私という人間はなんて現金なんでしょうね。

投稿: アトマツ | 2011/08/24 13:52

最後の文章を間違えましたcoldsweats02
私という人間はなんて「身勝手」なんでしょうと書きたかったの。
訂正します。ごめんなさいwobbly

投稿: アトマツ | 2011/08/24 13:56

>ロマン様

コメント返信遅くなってごめんね。

私や私の家族を知ってくれてるから余計リアルに私の気持ちを感じてくれるのかもしれんね。
ロマンさんの切望している記憶を、ロマン夫様とこねこちゃんとで育んでいけたらますます幸せやね。
みんな幸せ。嬉しいね。

ただいま。

おかえりなさいが日本だけの言葉やとしたら、なんて温かく素敵な言葉を私達は使ってるんやろうって思うね。

投稿: 水玉 | 2011/08/30 15:41

>凛様

コメント返信遅くなってごめんね。

『幸福な食卓』、以前私も読んだことあるよ。
確か映画化もされてたよね?
瀬尾さんの『卵の緒』が最高に好き。『7's blood』も。
久々に読み返したくなったよ。

ほんまや!
意識してなかったけど、私は黄色だけでなく黄色い食べ物も好きやったみたい(笑)

投稿: 水玉 | 2011/08/30 15:48

>アトマツ様

コメント返信遅くなってすみません。

還る場所があるというのは本当に幸せなことだと実家に帰る度思います。
自分も含め、いろんな物事が少しずつ変わってはいるんですけど、その中で変わらずにあることを見つけると嬉しくて泣きたくなる程です。
変わってしまったこともまた忘れずにいたいなと思います。

その渦中にいる時は気が付かないものなんですよね。
ましてや当たり前になって、時に面倒で、有難いなんて思わないですし…。


投稿: 水玉 | 2011/08/30 15:59

朝顔、咲いたよ。
こんなに可憐で清楚な朝顔、知らなかった。

手紙書いた。
でも出せない。
すぐそこのポストにすら、行けない・・。

投稿: ロマン | 2011/08/30 23:09

>ロマン様

咲いたって聞いてほんまに嬉しいよ。
手がかかる子ほど可愛いってか(笑)
そう、うちに咲いてるのも佇まいがすごく清楚。
会社の裏口に芽を出してた双葉を旦那ちゃんが丁寧に掘りおこして持ち帰ってきた朝顔やって話したっけ?

お手紙書いてくれたことが嬉しい。有難う。
いつまでも待ってる。

投稿: 水玉 | 2011/08/31 21:54

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 一周年 | トップページ | 名残 »